本放送の1980年当時、第23話『ずる賢くてたくましく』の次回に【幻の打ち切り版(※最終回)】•『燃えつきたバラの肖像』※1980年3月26日放送📺 これは、本作を遅れネットしていた一部地域では、プロ野球シーズン開幕によりキー局/日本テレビでは、ナイター中継枠は1980年シーズンから、それまでの19:30スタートが19:00スタートに繰り上がる事になった為、野球中継による本放送休止が生じた。 その際、遅れネット局の放送に穴が空き、先行ネットを行うと、ネタバレが起きてしまう問題もあった事から(※表向きは「編成上の都合」などと説明)、第24話で放送が打ち切られており、本来の第24話「アデュウ、わたしの青春」の内容とは、全く異なる打ち切り用の最終回「燃えつきたバラの肖像」として放送された。 資料によっては、総集編とされる事があるが、実際には回想シーンを除く大半が新規作画となっていて、本来の3クール目に相当する内容が本編とは異なるスタッフにより、ダイジェストで描かれている。 また、当時のアニメ雑誌《アニメージュ》での質問コーナーでも明確な質疑応答が掲載された。 『燃えつきたバラの肖像』のフィルム自体は現存するものの、本放送以降、再放送される事も無く、2023年現在においてもDVD等の商品化には至っていない。 フランス衛兵隊の軍服を着たオスカルとアンドレが馬に跨り駈けて行く…。 そのバックを以下の絵が現れては消える。 🟤焼きゴテの刑を受けるジャンヌ 🟤人買いに子供を売り渡す農民 🟤浮浪者の溢れる街 🟤民衆の暗い目と目 🟤印象派絵画風のそれらの情景。 🟤僧侶貴族に圧し、潰される平民を描いた当時の戯画。 ⚪️(ナレーション) 【首飾り事件以来、王室と僧侶貴族など特権階級の人々に対する民衆の反感は、日増しに高まって、貴族と平民の対立は激しくなって行った…】 オスカルは近衛士官のあり方に疑問を感じて、隊長の任務を副官ジェローデルに任せて、自らは近衛連隊を去っていた。 そして、今はアンドレと共に格が数段下のフランス衛兵隊の所属となっていた。 🟤パリ大通り・夕方。 2人の囚人が白い囚人服を着せられ、枠組だけの荷車に乗せられて、護送されて行く光景を通りの両側で見守る群衆達…。 馬に乗ったオスカルとアンドレをはじめ、衛兵隊の面々が群集の警備にあたっている。 『死刑囚だってさ…』 『なんだって、また…?』 『王様を攻撃したビラを配ってたらしいよ』 『そんな事でギロチンかい?』 『可哀想に…』 民衆達は、様々な声を上げて、やがて囚人達が角を曲がって見えなくなると民衆達も散り始めた。 オスカルは独り言のように呟いた。 《何故だ…?殺されに行くというのに、あの顔は…。 胸を張り、笑顔を見せているようにも見えたが…》 オスカルは同意を求めるようにアンドレを見ると、アンドレは瞳をこらすようにしている。 「どうした?」 「な、何でもない!」 「それなら、いいが…」 「さあ、行こう!」 「あぁ…」 オスカルはアンドレの仕草を気にしながらも、自分なりに納得して馬の向きを変える。 アンドレも馬の向きを変えようとするが、目が良く見えないので上手く手綱が捌けずにいた。 後日、ジャルジェ家の納屋でアンドレは、金属音を響かせて汗だくで蹄鉄を直している手を休める。 そして、ポケットからビラを取り出して、明るい所へかざし、目を近付けて読んだ。 《同士、アンドレ。7月14日、バスティーユへ集まれ!》 手紙の文面を目で追って行き最後に「自由…、平等…、博愛…」口に出して、アンドレは呟いた。 その瞬間、何かの影が過ぎ、驚いたアンドレはビラを隠す。 アンドレが見上げると明るい方に馬が立っていた。 「お前か…、脅かすなよ」 アンドレは馬を撫で、客人が来た屋敷に戻った。 アンドレはワインを盆に乗せて、応接室のドアをノックしようとした時、応接室のドアが開いて、ジェローデルが出て来た。 両者共に一瞬、動揺する。 ジェローデルは、直ぐにニヤリと笑ってアンドレに近付いた。 「やあ、アンドレ、久し振りだね」 「お久し振りです。何かと、お忙しい事でしょう」 ジェローデルは、階級章に手を触れて答えた。 「そうなんだよ。少佐ともなると何かと苦労が多くてね。 こう、世の中が物騒になって来るくと…。 オスカル隊長、率いる衛兵隊の方も大変だろう?」 「……」 ジェローデルは、アンドレから視線を反らして、隅に飾ってある薔薇の花を一輪取り出して、薔薇の香りを嗅ぎながら続けた。 「ところで、オスカル嬢は…? おっと、そうだった…、そうだった! オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェは男でござる…。 失礼…、美しいバラだ!」 アンドレは、何かを言い掛けるが、ジェローデルは首を振って、バラを口の辺りで揺すって、さえ切った。 そして、アンドレの反応を見て断定的に言う。 「バラは、高貴な殿方の手入れを受けながら、静かに暮らすのが至上の幸福というものだ。 オスカル嬢は、お前のような平民風情とは違う。彼女は薔薇さ!」 「そういう貴方は、何ですか? さしずめ、虎の威を借る狐という所でしょう」 ジェローデルは、委細構わず高圧的に続ける。 「言う事があるのなら、オスカル嬢との結婚式が済んでからにして貰おう」 ショックの余り、アンドレの手にした盆がカタカタと鳴っている。 そして、納屋で屈辱への怒りをぶつけるかのように蹄鉄を打ち続けた。 屋敷では、アンドレを捜すオスカルの声が聞こえる。 「アンドレ!アンドレ!」 オスカルがやって来て、床に落ちているビラに目を止め、訝しげに拾って読んで動揺する。 アンドレが夜の町を見廻りして、オスカルは物陰に隠れて、アンドレの姿を見つめている。 アンドレの影が石畳の上に長い尾を引き、街灯の廻りを舞う大きな蛾の影がオスカルの不安をかき立てる。 アンドレが見廻りをしながら、キョロキョロする。 単なる見廻りとも、何ともいわく有り気な不審な行動とも見える。 その姿を見て、馬に乗ったオスカルは探るように言った。 「異常はないか?」 「ありません!」 オスカルはアンドレを気にしながら、暫く見て去って行く。 翌日の昼間にジェローデルは、木陰でイライラしながらオスカルを待ち伏せしていた。 蹄の音が聞こえて来て、ハッと顔を上げると、馬に乗ったオスカルがやって来た。 オスカルは、木陰から現れるジェローデルに気も掛けない様子で行き過ぎようとする。 「こんな所で偶然ですな」 「……」 「例の話の御返事は?」 「例の話…?」 「おトボケになっては困ります。私との結婚の話でございます」 「アハハハ!!」 ジェローデルは毒気を抜かれた。 「そんな話は初耳だ」 「いいえ…、あなたはお聞きになっている筈です。 あなたにとって、この上ない幸せとなる筈の話。 それをそのように無視される訳を今日は是非とも伺わねば…」 「少佐ともなると、ご立派なものだな、ジェローデル。 私の幸せの心配まで、してくれと言うのか」 「こんな危険な御時勢ともなると…」 「いらぬ心配をするな。自分の道は自分で選ぶ。 それより、お前自身の頭の上のハエを追う事の方が先だろう」 「……」 オスカルはジェローデルを気遣って、ヤンワリと続ける。 「お前の事は忘れないよ。今まで本当に良くやってくれたのだから。 でも、今の私は、お前とは住む世界が違うんだ」 「……」 「さようなら。忠実な部下、ジェローデル」 オスカルは幾分か皮肉めいて言って、去って行く。 雨の中、三部会会議場の入り口では、警備するオスカル達と群集の両者がズブ濡れになりながらもみ合っている。 「衛兵隊!帰れ!帰れ!」 夜になって、焚火の前にアンドレが坐ってスープをすすっている。 そして、スプーンを持つ手を止めて、ジッと炎を見つめ、炎の照り返しの中で目を細め炎を見つめる。 2、3回瞬いて、袖でゴシゴシ目をこするとオスカルがスープを持ってやって来た。 アンドレは、慌てて正してスープを飲み始めた。 アンドレの隣にオスカルも並んで坐る。 沈黙が続いた中でオスカルが呟いた。 「惨めだな…」 アンドレはオスカルの意外な言葉に驚く。 「連中の燃える目を見たか? あのキラキラした目、悪いとは、どうしても考えられない…。 それを誰が取り締まれる。えっ、アンドレ?」 アンドレは、驚きを感じながらも冗談めいて答えた。 「…やめちまうか?こんな任務」 「それが出来る位なら、確かに貴族とは醜いものだ。 衛兵隊の連中は私を裏切らなかった。 しかし、私はふっ切る事が出来ない。 私は、まだ貴族なのだ…」 アンドレは気付いていないが、オスカルはポケットから、例のビラを取り出して、アンドレに何か言おうとするが言い出せない。 アンドレは遠くを見つめるように答えた。 「俺は、今すぐにでも、連中に加わりたい…」 オスカルは感じる所があって、再びビラをポケットにしまい込んだ。 ジャルジェ家の階段でアンドレが何度も繰り返して、歩数を数えながら階段を上って来る。 「12、13、14…」 アンドレは転んで四つん這いになったまま、悔しそうに拳で床を叩いた。 同時に怒ったジャルジェ将軍の声が聞こえて来る。 「アンドレ!アンドレは何処だ!」 アンドレは、ただ事ではない事を感じて声の方を見た。 ジャルジェ将軍の部屋では、オスカルも呼ばれていた。 「これは、何だ!?」 ジャルジェ将軍は、机の上に例のビラを放り出した。 離れて立っていたオスカルは、声を上げそうになって、ビラが目の前にある事が信じられないでいた。 椅子に坐ったままのジャルジェ将軍の前に立つアンドレに問いた。 「小間使いのミレーユが、オスカルの部屋を掃除していて見つけたんだ。 これは、何だと聞いているんだ! どうした?返事ぐらいしろ!」 ジャルジェ将軍は怒鳴り、黙り込むアンドレに静かに問いた。 「ここの暮らしに不満でも有るのか?」 アンドレは、ジャルジェ家の親切は痛い程に身にしみている。 ただ黙って項垂れる他ない。 そんなアンドレの姿をオスカルは痛々しそうに見守る。 ジャルジェ将軍はビラを畳み込んで言う。 「お前は、そんなに世の中が変わって欲しいのか? そうなったら、本当に国民が幸せになれると考えているのか? 賢い、お前の事だ…、良く頭を冷やして考えてみるがいい! 蜂起なんかしてみろ、許さんぞ!」 ジャルジェ将軍は、アンドレに言い放ち、部屋を出て行った。 オスカルは、庭の池の縁で佇むアンドレに近付くと剣を差し出した。 「憂さ晴らしだ!ひと汗、かこう!」 アンドレがオスカルに斬り掛かる。 「そうだ!その調子だ!」 斬り結ぶ2人の時間が経過して、芝生の上に寝ころぶ2人は、空を見ている。 「どうした、今日の動きは? お前…、目は本当に大丈夫なのか?」 「ああ…」 アンドレはオスカルに背を向けた。 オスカルは、疑わしくアンドレの後姿を見つめる。 オスカルが空を見て言う。 「アンドレ、許してくれ…、私が余計な事をしたばかりに」 「そんな事じゃないんだ。 とにかく、そっとして、おいてくれ」 屋敷の居間では、ジャルジェ将軍をはじめ、ジャルジェ家の家族や使用人達が完成されたオスカルの肖像画の前に集まっている。 そしてベールが取られて、オスカルの肖像画が披露された。 鎧をつけた軍神マルスの姿に擬した凛々しい、その姿にどよめきが起こる。 「昔、私が名もない画学生の頃にマリー・アントワネット様のお輿入れがございました。 その時の護衛の先頭にいた少年近衛兵のお姿です」 ムッシュー画伯が肖像画の説明をする。 回想でマリ−・アントワネットを護衛する近衛隊姿のオスカル…。 「その凛々しく美しかった事。 今でも、私の頭に焼き付いて離れません…。 私は、その時に決心したのです。 その姿をいつの日か…、いつの日か…、描こうと。 それが、今思えば、この家のお嬢様のオスカル様だったのでございます」 「素晴らしい…!」 ジャルジェ将軍は、娘の肖像画を見て感動するも、オスカルの居ない事に気付き、女中にオスカルを呼び出させた。 女中は返事をして、退室した後にオスカルとアンドレを連れて来る。 オスカルは居間に入って来るなり、何故か出来るだけ絵を見ないようにしている。 「どうした…、見ないのか?」 「理由は、お聞きにならないで下さい。 そういう気持ちになれないのです。お許し下さい」 「おかしな奴だ」 「私の絵に何か不都合な点でも?」 「そんな事あるものですか。 こいつは、元々ちと変わってましてな。 お気になさらずに…、それより本当に素晴らしい絵を有難うございます。 さあ、さあ、先生にご馳走を差し上げて!」 一同が促されて部屋から出て行くと、オスカルとアンドレはポツンと取り残されていた。 オスカルは絵を避けるようにして、窓に寄って外を眺める。 一方のアンドレは、必死で絵を見ようとしている。 だがアンドレの視界はボヤけて、殆ど絵の輪郭しか分からない…。 深夜になって廊下に誰かの影がよぎる…。 居間では、誰かが扉を開けたらしく、薄明かりの中にオスカルの肖像画が浮かび上がる。 絵の上にロウソクによって投影されたアンドレの影が映った。 アンドレはロウソクを持ち、顔を絵に近づけて必死にオスカルの肖像を見ようとする。 辛うじて顔の部分が見えた。 アンドレは心の中で呟いた。 《さようなら…、オスカル…》 「何をしている?!」 アンドレがハッとして、振り向くとオスカルが来ていた。 予測もしていなかった事態にアンドレは返事も出来ない。 そして、肖像画を見たままポツリと呟く。 「いい絵だ!」 「……」 アンドレは、ふと気を変えて続ける。 「お前、昼間、この絵を見ないようにしてたが、どうしてだ?」 「…本当は見たかったさ…。 でも、こんな絵ばかり見ていると何か分からないが、私の中に芽生え始めた思いが萎えてしまいそうな気がしたんだ」 「何故…?」 「分からない…。でも、近衛隊から私を衛兵隊に移らせた気持ちに似ている」 「どういう事だ?」 「お前と同じ気持ちさ。このままではいけない。 このフランスを何とか変えなければいけない…。そんな気持ちさ」 アンドレは納得したのか、しんみりと言う。 「近衛隊の頃のお前は、一途にアントワネット様をお守りする事だけ考えていたっけな…」 「遠い昔の事だ…」 「あの頃のお前は、燃える目をしていた…」 オスカルは、ふと淋しそうに笑ってから、恐ろしく深刻そうに探りを入れる感じで問いた。 「どうだい…?私のこの姿?」 「あ、あぁ…、お前の軍服姿がとても良く描けてるよ」 オスカルは、やっぱり…、という風に悟った。 「…アンドレ…、絵の中の私はね…、軍服姿なんかではないんだよ」 「……!!」 −中CM− 🟤ますます騒然としてくる世情。 🟤打ち壊しにあうパン屋。 🟤壁にビラを貼る活動家が辺りを注意深く窺い、一目散に去る。 🟤馬に乗った軍隊に蹴散らされる活動家たち。 🟤勢いを付けてストンと落ちるギロチンの刃。 🟤軍隊の太鼓が次第に緊張感を高める。 ベルサイユ宮の広間では、マリ−・アントワネットが昂然と檄を飛ばす。 「民衆の暴挙は許しません! 何やら、近々バスティーユに不穏な動きがあるとの情報が入っています」 居並ぶ将校達が緊張の面持ちで聞き入っている中にジャルジェ将軍、少し後ろの列にオスカルが居る。 オスカルはジャルジェ将軍の後姿を見て、ジャルジェ将軍は背中にオスカルの視線を感じている。 マリ−・アントワネットは淡々と話を続けた。 「王室や貴族に楯突いた謀叛人どもを閉じ込めてあるバスティーユを暴徒どもが狙うのは、予測はされてました。 王室の威光とフランスの平和を脅かす、この動きを見逃す訳にはゆきません。 彼らを武力で叩き潰すのです!」 オスカルはマリ−・アントワネットの余りにも衝撃的発言にブルブルと震え出した。 🟡イメージ画 《バスティーユ広場でアンドレが銃弾に倒れる。 ゆっくりとゆっくり倒れて行く…》 元のベルサイユ宮の広間に戻りオスカルは目を閉じる。 礼します」 マリ−・アントワネットは、立ち去って行くオスカルを見送る事しか出来ないまま、部屋の扉が重々しく閉まった。 夕闇の中に溶け込んでいくように、背後のベルサイユ宮が小さくなって、馬に乗ってオスカルは帰って行く…。 オスカルは心の中で呟いた。 「さよなら…、アントワネット様」 オスカルは感無量で馬の背に揺られながら、近衛隊時代のはつらつとしたオスカルを彷彿とさせる肖像画が映し出される。 ジャルジェ将軍は、自室で物思いに沈んでいる。 そして、扉の方でコトリと音がして見るとオスカルが立っている。 ジャルジェ将軍は目を反らした。 「父上、私は間違っているでしょうか? お考えをお聞かせ下さい」 ジャルジェ将軍は、グラスに酒を注ぎながら答える。 「ワシは、王室に背く事が出来る程、器用な人間ではない」 「民衆を傷付けよ、との命令が下されてもでございますか!?」 ジャルジェ将軍は、苦しそうに酒をあおる。 「ワシは近衛連隊の将軍だ。 全ての貴族が敵に回り、1人になろうとも、ワシは王室をお守りする。 それが軍人としての務めだろう。 なあ、オスカル、そうだろう?」 オスカルは、父の心情も痛い程に理解出来ていた。 「そんな飲み方をされては、体に障ります」 「お前も1人前の口を聞くようになったんだなぁ…」 「今日…、陛下に官位をお返し申し上げて参りました」 「何だと…!?」 ジャルジェは興奮して、ブルブル震え出すとグラスが床に落ちて割れた。 たじろがないオスカルの気迫にジャルジェ将軍の方が背を向けて、机に手を突いた。 「今迄…、何の為に育てて来たと…」 ジャルジェ将軍の声は震えて、オスカルは目を伏せる。 「…お前の幸せだけを考えて…、それで王家にお仕えする軍人、貴族にとって、これ以上の誉は有るか? 何の…、何の不足が有って、お前は…?」 「普通の女性として、育っていれば、これ程まで悩まなくて済んだでしょうに…。 私は、男として育てられたからこそ、軍人だからこそ、言うのです。 フランスを何とかしなければ…」 「言うな!!」 オスカルは構わずに続ける。 「今、貴族がどうの、平民がどうの、と言っている時でしょうか!?」 ジャルジェ将軍もオスカルの言う事も理解はしていたが… 「親の気持ちが分からんか!」 ジャルジェ将軍は、オスカルを殴り飛ばして、倒れたオスカルから目を背むけ、将軍の目には涙が溢れていた。 オスカルがハッとなり、ジャルジェ将軍を見ると父の背中が揺れて泣いている。 そして、オスカルの目にも涙が溢れる。 「父上…、私は…」 「己…、まだ言うか…!?」 ジャルジェ将軍が振り向いて、拳を振り上げるとアンドレが飛び入って来て阻止する。 「お待ち下さい!!」 アンドレがジャルジェ将軍を羽交い絞めにする。 「うっ!放せ!アンドレ!」 「放しません!!」 ジャルジェ将軍は、力尽くで振り解き、アンドレとオスカルの前に立ちはだかった。 「オスカルの…、いえ…、オスカル様の代わりに、どうか私を!」 アンドレは動じる事なく言い放ち、オスカルは息を呑んだ。 「それが、お前の気持ちか…?」 ジャルジェ将軍は、悲しそうな眼差しでアンドレを見つめ、全ての苦哀をアンドレにぶつけるように言い続ける。 「貴様、使用人の分際で身の程も知らずに!」 アンドレはジャルジェ将軍に殴られて、吹っ飛ぶが直ぐに立ち上がって将軍の前に立つ。 再び、殴り飛ばされて、立ち上がっては、また殴られ飛ばされた。 「お止め下さい!父上!」 尚もアンドレを殴るジャルジェ将軍の息は荒く、顔色も青ざめる。 「馬鹿めが…、身分の違いを越えるものがあると思うのか!」 尚もアンドレは殴り飛ばされては立ち上がる。 オスカルは必死でジャルジェ将軍に叫ぶ。 「アンドレが死んでしまいます!父上!」 オスカルが間に入って、止めようとするが父の腕力に弾き返される。 半分、ジャルジェ将軍は泣きながら、アンドレを殴っている。 オスカルは壁に飾ってある剣を取ると父に向けた。 「父上!!」 ジャルジェ将軍は、オスカルの語気の激しさに驚き手を止めた。 そして、オスカルの剣を持つ手が震えている。 ジャルジェ将軍が悲し気に呟いた。 「お前は…、この父に向かって…」 アンドレも意外な成り行きに驚いて立ち上がる。 ジャルジェ将軍とオスカルの長い見つめ合いの中で、互いの目の中に父と娘の永遠の別れの予感を読み取った。 そして、ジャルジェ将軍はアンドレに限りなく優しく言う。 「お前が貴族で有りさえすれば…」 ジャルジェ将軍は娘オスカルにも同様に優しく告げる。 「自分で選んだ道だ。後悔するなよ…」 そう言い終えると、ジャルジェ将軍は静かに部屋を去った。 アンドレは剣を構えたままの悲し気なオスカルの後姿を見つめる。 そして、傷だらけになりながらも昴然と立ったまま言う。 「オスカル…、お前…」 オスカルは呆然と椅子に腰を下ろした。 深夜・馬屋から、アンドレが音を立てないように馬を引いて出て来た。 「私も行くぞ」 そこには、オスカルが馬に跨って待っていた。 「明日は7月14日だ。お前の行く所くらい、分かっている」 アンドレは動揺して、言葉が出せないでいる。 「この暗さの中を、その目で1人で行くのは無茶だ」 「オスカル…!」 アンドレも馬に跨ると、2人は馬を静かに進ませながら、門を出て行く。 一方、居間の窓からジャルジェ将軍が2人の姿を見送っていた。 2人が出て行くのを見届けてから、軍神マルスの姿をしたオスカルの肖像画に視線を移す。 そして、ジャルジェ将軍は肖像画に話し掛ける。 「お前は本当に行ってしまったのか…? ワシは間違っていたのか? お前を女として育てていれば、こんな悔いは残さなかったのか…?」 野原の中を月光を浴びながら、オスカルとアンドレの馬が駆け走って行く。 アンドレは手綱捌きを誤って、馬が停止した拍子にバランスを失って落馬した。 「アンドレ!」 オスカルが慌てて、馬から飛び下りて駆け寄る。 すると、アンドレの額に血がにじんでいた。 「やはり無理のようだな。 明るくなるまで、少し休んで行こう」 近くの森の廃屋に入って、焚火を起こす。 炎が揺れ動く中でオスカルがアンドレの額の血をぬぐう。 自然と近付く2人の顔…。 オスカルの髪がアンドレの鼻さきを掠める。 揺れる2人の影… 突然、アンドレに手首を掴まれたオスカルはビクッと体を硬直させたまま、2人の顔に炎の照り返しが揺れている。 「何をする!?」 オスカルが離れて、髪がほつれて額に架かり、大きく波打つ胸… アンドレはオスカルを見ないで言う。 「どうかしてたんだ…、許してくれ…」 オスカルの頬を涙が伝わった。 「本当に許してくれ…、オスカル…?」 森の中で鳥が飛び立った。 月の光を浴びて、生まれたままの姿のオスカルが立っていた。 「オスカル…!」 ハッとして、見つめるアンドレにオスカルは涙を流しながら問う。 「…綺麗かい…?」 アンドレの目にも涙が溢れ出る。 「ああ…、綺麗だよ…、オスカル…」 アンドレが手を差し伸べるとオスカルも差し出した。 そして、オスカルはアンドレに引き寄せられる。 2人の見つめ合う瞳に涙が光っている。 オスカルは静かにアンドレの胸に飛び込み、アンドレはオスカルを強く抱きしめる…。 焚火が爆ぜいている中で、朽ち果てた天井から、夜露が雫となって、落ちたと同時に2人は結ばれた…。 一方、ジャルジェ家の召使いが背中に大きな荷物を背負って、馬を飛ばして廃屋にやって来た。 「父上が、これを…?」 身繕いしたオスカルとアンドレの前に包みを手にした召使いは、目頭を押さえながら答えた。 「何か存じませんが…、地位も財産も投げ打ったオスカル様へ、せめてもの、はなむけとおっしゃられて…」 「わざわざ、ありがとう」 オスカルが包みを解くと、中から軍人マルス姿の肖像画が現れた。 「こ、これは…!」 オスカルとアンドレも召し使いも驚いた。 オスカルは父の最後の優しさに感激している。 「確かに受け取った。 父上に感謝の気持ちと、お元気でと伝えてくれ」 「分かりました。オスカル様もどうか、ご無事で…!」 再び目頭を押さえて答えた召使いが馬に乗って去って行く。 オスカルは、しみじみと自分の若々しい肖像画を眺めた。 「オスカル…、お前、やっぱり帰れ」 「帰らない…、お前と同じさ。 もう戻る所もないし、行く所も1つしかない」 「オスカル…」 時間が経過すると共にオスカルの肖像画が燃えてゆく…。 オスカルとアンドレは、自分たちの青春を手厚く葬るかのように姿勢正しく炎を見つめている… 🟤オスカル・モノローグ 《さようなら…、私の青春…》 空が白んで来て、7月14日の朝が訪れる…。 馬に跨るオスカルとアンドレ。 オスカルが振り返ると、肖像画の燃え尽きた灰が風に飛ばされて行く…。 オスカルは思いを振り切るように叫んだ。 「さあ、行こう!」 万感、胸に迫りオスカルの目に涙が溢れた。 オスカルは、努めて明るくアンドレに問いた。 「私が今、どんな気持ちか分かるか?」 「例え、目は見えなくても…、お前の心は分かっている」 2人はしばし見つめ合った。 「オスカル…」 「うん!」 馬を進める2人… フランスは新しい時代を迎えようとしていた。 《大群衆の声が次第に大きくなって来る》 フラッシュ的に熱狂的な大群衆の怒号と罵声の中で以下の絵が次々と浮かび上がる。 🟤断頭台に引き据えられるマリー・アントワネット。 🟤虐殺されるフェルゼン。 🟤バスティーユ広場の火を吹く大砲。 🟤バスティーユの攻防戦。 🟣アンドレの悲痛な叫び声 『オスカル!』 🟣オスカルの悲痛な叫び声 『アンドレ!』 《大群衆の声が次第に小さくなる》 メラメラと燃えているオスカルの肖像画が現れて、上記の絵にナレーションが被る。 ⚪️(ナレ−ション) 【数々の命を、その巨大な歴史の渦の中に呑み込みながら、フランスは新しく生まれ変わろうとしていた。】 《地平線の彼方へ、何処までも何処までも小さくなって行く、馬上のオスカルとアンドレの後姿…》 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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