高貴さを涙にこめて

王太子妃マリ−・アントワネットから、未だに声を掛けて貰えないデュ・バリー夫人の怒りは、遂に国王ルイ15世までもを動かした。

「あの赤毛のチビが、陛下の御命令を大勢の貴族の前で、公然と無視したのですわ!」

デュ・バリー夫人は、国王の前で嘘泣きをして、涙ながらに直訴した。
そして、国王ルイ15世はオ−ストリア大使のメルシー伯を通して、アントワネットにデュ・バリー夫人に声を掛けるようにと命じた。

一連の対立を見て来たオスカルからも、アントワネットに和解するように進言して、メルシー伯もアントワネットに忠告する。

「母君マリア・テレジア様が生涯を賭けて、成立なされたフランスとオーストリア同盟ならば、妃殿下の我が儘で、ぶち壊しになされたらいいのです!」

「メルシー伯爵、約束します。
あの女に1度だけなら…、1度だけなら、言葉を掛けましょう。
でも−、でも…、これは、私の意志ではありません!
ただ…ただオーストリアのお母様のため…!」

大勢の貴族たちがいる中、ベルサイユ宮殿『鏡の間』で、マリ−・アントワネットは敵視するデュ・バリー夫人に声を掛けようとした時、デュ・バリー夫人を嫌っている国王の娘の3人姉妹の叔母たちに邪魔されて連れ出されてしまう。



一方、王太子失墜を狙うオルレアン公は、キツネ狩りに乗じて、王太子暗殺を計画するが、失敗に終わってしまう。

1772年1月1日
新年の挨拶の為、フランス中の貴族たちがベルサイユ宮殿に伺候していた。

デュ・バリ−夫人がマリ−・アントワネットの前に歩み寄って来た。

《わたくしの一言にヨーロッパの平和が架かっている…》

生まれながらの誇り高き女王として、マリー・アントワネットは、震える心を押えて、顔を上げると宮殿内が静まり返った…

「…おめでとう…、今日のベルサイユは大変な人出ですこと…」

「アハハハ…!」

デュ・バリー夫人は、勝ち誇ったように高らかに笑い上げた。

マリ−・アントワネットは、悔しさの余り、泣きながら、『鏡の間』から駆け出して、自分の部屋へと帰って行く中、オスカルが後を追う。

「わたくしは負けた!1度だけ…、私は、あの女に声を掛けました。
でも…、もう、これっきりで、終わりです!
もう、あの女には、絶対に一言だって話し掛けません!」

《なんという誇り高いお方だろう。
この、お方は、生まれながらの女王…。
その、お心は、既にフランスの女王なのだ。
アントワネット様、オスカルは、この剣に賭けて、生涯、妃殿下にお仕え申し上げます!》


その頃、反国王派のオルレアン公が、デュ・バリー夫人の部屋へと訪れた。
すると、オルレアン公は、『自分と手を組まないか?』と持ちかけていた…。





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