あの微笑はもう還らない!

王室側の兵士の撃った一発の銃弾がオスカルが愛する、アンドレの胸を貫いた…!

重症のアンドレを乗せたアランの馬を守りながら、衛兵隊員たちは包囲網を突破する。
アンドレを死なせては成らない。
血を吹くアンドレは、オスカルを逆上させていた。
降り注ぐ銃弾の中をオスカルは走る。
アンドレを助ける為ならば、もう怖いものなどなかった。

「日が沈むのか…?オスカル…?
鳩が寝倉に帰って行く羽音がする…」

「うん…、今日の戦いは終わって、もう銃声1つしないだろ?」

ベルナ−ルの呼び掛けで民衆の中から、アンドレの診察をする為に10人を越える医師たちが名乗り出た。

そして、ベルナ−ルがアンドレの容態を医師に尋ねた。

「弾は心臓を真っ直ぐに貫いている…。
まだ命があるのが不思議な位です。
残念ですが、もはや手の施しようが…」

オスカルはアンドレに付き添ったまま、涙を流し続けながら、アンドレの伸ばした手を握り締めた。

「どうしたオスカル…?何を泣いている…」

「アンドレ…、式を挙げて欲しい。
この戦いが終わったら…、私を連れて、地方へ行って、何処か田舎の小さな教会を見つけて、そして結婚式を挙げて欲しい…。
そして、神の前で私を妻にすると誓って欲しい…」

「もちろんだ…。そうするつもりだよ…。オスカル…、そうするつもりさ…。
でもオスカル、何を泣く…?なぜ泣くんだ?ダメなのか…?」

「何をバカな事を…|、アンドレ|」

「そうだよね…、そうだ。そんなハズはない…|全ては、これから始まるんだから…。
俺とお前の愛も…。新しい時代の夜明けも…。
全てが、これからなんだ。。こんな時に俺が死ねるハズはない…。死んでたまるか…!」

すると、アンドレの右目から一筋の涙が流れ落ちた…。

「いつか、アラスに行った時、2人で日の出を見た。
あの、日の出を、もう1度みよう…!アンドレ!
あの素晴らしかった朝日を2人で…。出会って、生まれて来て、本当に良かったと思いながら…。
…はっ|、…アンドレ!?…、アンドレ−ッ!」

哀しみの余りにロザリ−は、夫ベルナ−ルに泣きついた。
アランをはじめ、衛兵隊員らも泣いている。

そして、静寂の中でアンドレ・グランディエは神に召された…。

「アンドレ!私を置いていくのか!!」

オスカルは、アンドレとの永遠の別れに泣き叫ぶ事しか出来なかった。

そして、アンドレの遺体は、昼間の戦闘で死んだ衛兵隊員ら、市民の遺体らと共に広場の近くにある小さな教会に安置された。

アランは宿舎に戻らず、教会前に座るオスカルの元に行く。

「冷えるぜ、今夜は…」

アランは、オスカルの背中に上着を羽織らせた。

「隊長、安っぽい慰めは言いたかないが、アンドレは幸せ者だよ。
あんたへの思いが一応は通じたんだからよ。元気だせや…」

立ち去るアランにオスカルが声を架けた。

「アラン…、待て。明日からの我が隊の指揮をお前に頼む。
私は、私は…、もう、皆を引っ張って行けそうにない」

「やめなよ、オスカル!
そんな事を言ったら、切りがねぇ!
あんたの深い苦しみと比べようもねぇだろうが、奴が逝っちまって傷付いてるのは、あんただけじゃねぇ。
朝までには、皆の前に顔を出してくれや。
全ては、これからなんだからよ」

アランは、オスカルに背を向けたまま、涙を流して言い終えると去って行った。

そして、その後で教会前に座り込むオスカルは激しく咳き込んで再び吐血した…。

「愛していましたアンドレ…。
おそらく、ずうっと以前から…。気付くのが遅すぎたのです…。
もっと早く、貴方を愛している自分に気付いてさえいれば、2人はもっと素晴らしい日々を送れたに違いない…。
余りに静かに余りに優しく、貴方が私の側にいたものだから…、私はその愛に気付かなかったのです…。
アンドレ…、許して欲しい…。愛は裏切る事よりも愛に気付かぬ方がもっと罪深い…」

雨が降り出す中、宿舎のアランの元に同僚隊員が、教会前にも広場付近にもオスカルの姿がなく、行方不明になっている事を報告した。

ベルナールが衛兵隊の宿舎に相談に訪れた。
バスティーユ牢獄に大量の火薬と砲弾が運び込まれて、雨の中で大砲がパリ市内と市民に向けられたと言う。

オスカルは、降り続く雨の町中をさ迷い歩いては咳込んでいた。

朝方に近くに雨は上がった。
そして、フランス革命史上不滅の日…。
7月14日、バスティーユ攻撃の幕が落とされようとしていた…。

「バスティーユを陥とせ!」

1789年7月14日、一部の市民たちは、アンバリッドの武器庫を襲撃した。
そして、3万6千丁の銃と12門の大砲を奪った。
そして、その足でバスティーユへと向かった。

町中の脇道で民衆たちの声で目覚めたオスカルの目の前にアンドレが立っていた。

「アンドレ…|」

《オスカルどうした?、こんな所で何をしている?
誰もが、バスティーユに向かったぞ!
誰もが、銃を取り、戦う為にバスティーユへと向かった!
だが君が率いる、衛兵隊はまだ広場に居る》


『広場で待っている…!隊長!
あんたと共に戦おうと皆、あんたの帰りを待ってる|』

「アラン…|いつまで、皆を待たせる訳には行かないな」

「あぁ…」

「アラン…、もう1度だけ…、これが最後だ。泣いてもいいか…?」

「あぁ…、いいぜ。思いっ切りな…」

オスカルは、アランの胸を借りて泣き崩れた。

午後1時、遂に戦闘が開始された。

この時、バスティーユ側は、ドロ−メ公爵以下、114名の兵だけだった。

また、その頑丈な城壁と大砲の威力が何万もの市民を地獄の底に突き落としていた。
そして、大砲が有りながらも市民達は扱い方が判らずに一方的に攻撃されていた。

そこへ、オスカル率いる元衛兵隊員達が駆け付けた!
そして、オスカルの指揮官の下で攻防戦が始まった。
すると、確実にバスティーユは襲撃された。

「大砲の事は我々が引き受けよう!
よしっ!全員配置に就け!攻撃準備!」

オスカル指揮の下、隊員たちが砲撃の準備を整える。

「発射角、45度!!、狙うは城壁上部|」

市民側の大砲が一斉にバスティーユに向けられた。

「撃て−ッ||」

オスカルの援護で的確にバスティーユは攻撃されていた。

バスティーユ国王側のドローネ司令官は、市民側で正確に砲撃指示するオスカルに狙いを絞る命令を出した…。

「よ−し!狙いを一斉にアノ指揮官に絞れ!」

そして、不気味な無数の銃口がバスティーユ側から一斉にオスカルに向けられた…。

次の瞬間、ドローネ司令官の合図と共に幾つもの銃声が響き渡って、青空には一羽の白鳩が舞い飛んだ…。

そして、一瞬、オスカルの身体が宙に浮いたと同時に倒れ込んだ…。



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