アンドレは日記をつけた。 1789年7月12日/朝 《昨日、大蔵大臣ジャック・ネッケル氏が罷免された。 そして、愛国者虐殺のデマが飛び民衆が武装を開始した。 パリにもう昼と夜の区別は無い。 人々は棒を持ち、ナイフをかざし路地裏を走り回る。 パリに集められた10万の軍隊が篝火を焚き市民を怒鳴りつける。 混乱…、そして、疑惑…。 これが新しい時代の胎動なのだろうか…? 輝ける明日の為の何かなのだろうか…? 分からない…、分からないが見つめよう…。 この時代の節目を俺の右目で…、もう殆ど見えなくなりかけた俺の右目で…》 左目を負傷したアンドレは、残された右目にも既に光は徐々に失われつつあった。 そして、同時に愛するオスカルも胸の病に苦しんでいた…。 「私とて、死にたくはありません…。 しかし、いずれその日が来るならば…、それまでに精一杯生きたいのです。 自由に…、そして有るがままの心で」 「このままでは、長くて半年のお命でございます…」 ジャルジェ家の主治医ラソンヌ医師は、オスカルに暫く静養する事を薦めた。 そして、オスカルは、この時、初めてアンドレの右目の状況をラソンヌ医師から聞かされた。 「アンドレ・グランディエが失明するのは、時間の問題です」 オスカルは、ラソンヌ医師の言葉を聞いて呆然とする。 そして、フランスA中隊に戦闘装備での出動命令が出た。 一方、執勤室では、ダグー大佐はオスカルに進言する。 「隊長、お顔の色が冴えません…。 私の妻が去年、死にました。胸の病で…。 ですから…、分かります!私には…」 オスカルは、体調を気遣ってくれたダグ−大佐へ礼を述べた。 そして、アンドレは同僚から、オスカルに執務室に呼ばれている事を聞いて執務室の扉をノックした。 「オスカル隊長!アンドレ・グランディエ、入ります!」 入室して敬礼をしたままのアンドレは、パリの状況をオスカルに報告する。 しかし、アンドレには、オスカルの姿は殆ど見えない状態だった。 アンドレは、オスカルの返答のない事に目を細めて、机にオスカルが座っていない事に気がついた。 「…んっ…?…オスカル…? 何だよ、呼び付けておきなから、居ないなんて…」 執務室の片隅に立ったままのオスカルは、アンドレの目が見えていない事を確信した…。 「アンドレ…、お前には、もう私の姿も見えないのか…」 軍隊の警備の手薄な箇所をついて民衆は駆け巡る。 飢えを満たす為に食料倉庫が襲われて、銃を求めて、武器商人の倉庫へと向かう。 そして、衛兵B中隊に出撃命令が出た。 「武装する、暴徒集団を鎮圧せよ!」 夕暮れ時のジャルジェ家では、アンドレが馬舎で翌日の馬支度を整えていた。 そこへ、ジャルジェ将軍がやって来た。 「一言だけ、私の気持ちを伝えておきたい…。 もし、お前が貴族ならば、私は間違いなく、お前とオスカルの結婚を許していたろう、 いや、心からの祝福を贈っていたはずだ。 死ぬなよ…、アンドレ…!必ず、戻って来い!」 民衆は、武器と弾薬を得る為にアンバリッドへ向かう。 オスカルとアンドレは、彼等に襲われながらも川岸に辿り着いた。 「アンドレ!私から離れるな!」 オスカルは、アンドレの目の事に触れて、屋敷に1度、戻ろうと促した。 そして、アンドレを帰して、自分だけ衛兵隊の宿舎へ向かおう考えでいた。 「俺は行くよ…オスカル! 今迄もそうだったが、これからもそうだ。 俺は、いつも、お前と共にある…」 「アンドレ…、私は、かってフェルゼンを愛した。 おまえに愛されているのを知りながらも、フェルゼンを愛した…。 そんな私でも、なお愛してくれるのか…?」 「全てを…、命ある限り」 「ああっ…、アンドレ!愛しています!! 私も…心から…」 「分かっていたよ。そんな事…。 もう、何年も前から…、いや、この世に生を受ける前から…」 「アンドレ・グランディエ…!あなたがいれば、私は生きられる…!、いえ!生きていきたい…」 そして、愛し合うオスカルとアンドレの二人は結ばて、オスカルはアンドレ・グランディエの妻となった。 ジャルジェ家の居間では、ジャルジェ将軍がオスカルの肖像画を見つめながら、語り掛ける。 「生きよ…!オスカル!、お前の心の命ずるままに!」 そこへ、乳母のマロングラッセが、オスカルから手紙を預かっている事をジャルジェ将軍に伝える。 「すまないが、読んでくれないか…」 マロングラッセは、涙を流しながらオスカルの手紙を読んだ。 「私ごとき娘を愛し…、お慈しみ下さって、本当にありがとうございました」 「…何を言うか…!、オスカル…! まるで…、それでは、本当の別れのようではないか…?、許さん!許さんぞ!オスカル!」 ジャルジェ将軍は、涙を流してオスカルの名を叫んだ。 全ての苦難を越えて結ばれたオスカルとアンドレの2人は、新しい世界の扉を開ける為に立ち上がる…。 [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |