今、テニス・コートの誓い

貧困と王室への不満から湧き上がった民衆の声と勢いは、遂に三部会開催を勝ちとった。
しかし、三部会は、初めから荒れ続けて、いつまで経っても纏まりを見せようとはしなかった。

新しい時代へと思いを馳せる平民議員…。
それでも尚も旧体制を守り続けようとする貴族僧侶議員…。
会議は荒れたまま休み無しに続けられて、平民議員のロベス・ピエールが演説をする。

「我々は、全フランスの96%を占める代表だ。
従って、我々こそが、真のフランス代表である!
そこで、我々は僧侶と貴族代表である議員諸君に提案する。
よろしいか!諸君は僅か全フランスの4%の代表権しかないのだ!
君達は、もはや我々、平民議員と手を組む以外に道はない!」

彼の演説によって、一部の僧侶貴族議員の合流に力を得た。

一方、オスカルは自分自身を奮い立たせていた。

「新しいフランスが今度の三部会から生まれて来る。
それが成功する様に議会議員たちを守るのが、今の私の任務だ。頑張れ…!オスカル!」

一瞬、オスカルは咳込んだ。口を押さえて、開いた手の平には血が滲んでいた…。

6月17日、平民部会は独自に『国民議会』と名乗る事を決議する。

「国民議会?とは、どういう事ですか?」

国王ルイ16世は、平民議員が独自に創りあげた国民議会に困り果てる。
そして、三部会の入り口の閉鎖をブイエ将軍を介して、衛兵隊隊長のオスカルに命じた。

「ブイエ将軍閣下!彼ら議員は、フランス国民が選挙で選んだ正統な代表です。
そのような事は、彼らに対する侮辱以外の何物でもありません!」

「陛下あっての国民だ!、陛下あっての議員。
そして我々、貴族だ。私は議論をする為に君を呼んだのではない。
命令を伝える為だ…。議場を閉鎖するのは、君でも私でもない。陛下の御意思だ」

1789年6月20日、議会会場から閉め出しになった平民議員達は、現在のテニスの前進にあたるジュー・ド・ポーム球場へと向かった。

「我らは、会議場を追い出された!
国民の為の国民による国民議会は、国民の為の憲法が制定される、その日まで、決して解散をしない!」

これこそ、フランス大革命の、のろしともなった有名な『テニスコートの誓い』であった。

国王ルイ16世は、再び、三つの身分代表議員を会議場に召集する。
開けられた扉は1箇所だけで、1人ずつの入場となった。
貴族僧侶議員は、正面玄関から入場出来た。
しかし、平民議員は、雨の中を待たされるだけで、なかなか入場出来ずにいた。

この事態に気付いたオスカルは、議場の指揮官ラ・ボ−ム大佐を投げ飛ばして、衛兵隊に命令を出す。

「衛兵諸君!直ぐに正面の扉を全て開き、議員の方々を会議場へ御案内しろ!
ラ・ボ−ム大佐!、これ以上、雨の中で待たせたら、暴動が起り、私は警備の責任者として、不慮の大事故が起こらない様に処置しただけだ。
いいか!そうブイエ将軍に報告したまえ!!」

国王ルイ16世は、官僚達からの忠告と厳命を受けて会議場で宣言する。

「世は、三部会を召集したのであって、国民議会を開いた覚えはない。
直ちに国民議会を解散して、会議場から退場するように!」

国王ルイ16世の命令により、僧侶貴族議員は速やかに退場する。
しかし、国民議会派は居座り続けた。

オスカルと衛兵隊員達は、ブイエ将軍から出頭命令を受けて、ベルサイユ宮殿内の司令官室に出向く。
オスカルは、隊員達に外での待機を命じて、1人で司令官室に向かう。

衛兵隊部長アランは、アンドレに助言して、オスカルの付き人として同行させたが、司令官室の前で阻止される。

「君と君の率いる、衛兵隊B中隊の現在の任と事情警備の任を解く」

「理由をおっしゃって下さい」

「本来ならば、会議場、正面扉を独断で開けた行為は、私への命令違反だ…。
逮捕して、軍事裁判に架ける所なんだよ。
それを警備の任を解くだけで、許してやろうと言うんだよ」

「私は軍事裁判など、怖くはありません!」

「君の父上は、私の古くからの友人だ。
今の言葉は、聞こえなかったよ…」

「お話が済んだなら、帰らせて頂きます。
部下を待たせて、ありますから!」

「いや…、新たな任務がある。
いいか、聞きたまえ。
衛兵隊B中隊は、これより直ちに完全武装。
議場に帰して、居座る国民議会派の連中を1人残らず排除せよ!
抵抗する者には、強硬手段を取れ!
場合によっては、発砲し死に至らしめても止むを得ん!」

「発砲…!?、死に至らしめる…!?
なんと言う事を閣下!!
彼ら、フランス国民の選んだ代表です!
その彼らに銃を向けろと言うのですか!!」

「もはや、彼らは国民の代表でも、何でもない!
陛下に盾突くただの謀反人だ!
速やかに隊員に装備させ、会議に向かえたまえ!」

「お断りします!」

ブイエ将軍からの任務を断ったオスカルは、反逆罪で逮捕されて、ブイエ将軍の部下達に囲まれて軟禁される。
そして、ブイエ将軍自らが、衛兵隊に任務を伝えに行く。

オスカルが司令室の窓際に歩み寄る。

「私の部下達が、ブイエ将軍の命令をどう受け止めるか」

部下たちを信頼しているオスカルには、彼らの答えは予想出来ていた。

降りしきる雨の中、ブイエ将軍が衛兵隊を整列させて命令を下す。
ブイエ将軍の命令に従って、数人の隊員が走り出すとアランが叫んだ。

「待てよ!みんな!
俺達は、此処でオスカル隊長を待っていると約束したんだぜ!
隊長が戻って来る迄、ここを動くんじゃねえ!」

「うむっ?何…!?、最高司令官の言う事が聞けぬのか!」

「最高司令官か、何だか知らねぇが…
こんな奴の言う事など聞く事はねぇ!
俺たちに命令出来るのは、俺たちの隊長だけだ!」

衛兵隊員達はアランに賛同した。

「見ての通りだ。アラン・ド・ソワソ以下…、11名は、ここに正式に命令を拒否する事となりました」

「よろしい…。では、貴様らに軍の規律がどんな物か教えてやる!」

ブイエ将軍は司令官室に戻るとオスカルに告げた。

「アラン以下、11名の隊員をアベイ牢獄へ投獄し、軍事裁判で全員に銃殺を求刑する」

「銃殺…!?、私への処分さえあれば、部下12名の銃殺は重大な間違いです!
それと、もう1つ!、会議場への武力介入は、フランス史上、許されざる汚点となりますぞ!」

「心配は無用…。謀反人の始末は近衛隊がやる!」

「近衛がっ…!?悪いが通して貰う!」

オスカルは、監視の隙を見て、司令室から出ようとアンドレを呼び出した。

「アンドレ!!」

司令室の前に待機していたアンドレがオスカルの救出に入って、2人は司令官室を抜け出した。

「急げ!アンドレ!近衛連隊が会議場へ突入する!防ぐんだ!、何としても!」

オスカルとアンドレは、どしゃ降りの雨の中、馬を走らせてた…。



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