アンドレ、青いレモン

左目を失明してアンドレの残された右目も負担が掛かって、段々と霞むようになって来ていた。

ベルサイユ宮では、王太子ルイ・ジョゼフが高熱に苦しみながら、その場に居ない父ルイ16世を呼んでいた。
息子の姿を見て、王妃マリ−・アントワネットは愕然とする。

「神様…、あの子が寂しげに陛下の名を…、
殆ど毎日を私と過ごしているはずのあの子が…、私ではなく、陛下の助けを…、許し下さいませ…。
罪深い私をどうか、お許し下さい…。
もし…、もし…、あの子の苦しみが私の犯した罪への戒めならば…、私は、今ここでフェルゼンとは、もう会わないと誓いを立てても構いません…。
ですから…、ですから…、どうか、お許し下さい」

王室礼拝堂で懺悔するマリ−・アントワネットの姿を遠目で見ていたフェルゼンは、目を閉じて立ち去った…。

そして、フェルゼンはオスカルの屋敷を訪れた。

「ひと月ほど前の舞踏会で不思議な事があった…。
君とそっくりな女性に出会った」

フェルゼンは、オスカルの手を不意に取り握った。
フェルゼンは、瞬間的な身のこなしから、舞踏会でダンスを踊った美しい伯爵夫人が、オスカルであった事を確信した。

「やはり…、オスカル、君だったのか…」

「この世に愛は2つある。
《喜びの愛》と、そして《苦しみの愛》だ」

「いいや、オスカル…、この世の愛は、たった1つ…。苦しみの愛だけだ…」

「いつかは、こんな日が来ると思っていました…。
これで終わりです…。フェルゼン…、お別れです」

「忘れないでくれ…。オスカル!
君は、私の最高の友人であったこと…。
そして、私もまた君の最高の友人であろうと精一杯勤めて来たことを!」

「忘れません…、決して…!」

《神よ…、フェルゼンにご加護を…。
そして、いつか喜びの愛を彼にお与え下さい》

オスカルは、近衛をやめる決心をした。

「男として、育てられた私だ…。
これからの一生、より男としての人生を送ったとしても、何の不思議もあるまい…。
だから、私は近衛をやめる!」

オスカルの部屋にお茶を運んで来たアンドレが答えた…。

「赤く咲いても、白く咲いても、バラはバラだ。
バラは、ライラックになれるはずがない…」

「アンドレ…、それは、所詮、女は女と言う意味か!?答えろ!アンドレ!!」

オスカルは、アンドレに詰め寄って、握り拳を振り上げた。
すると、同時にアンドレの抑えていた気持ちが放たれた。

アンドレは、オスカルの腕を掴み、一気にベッドに押し倒した。

「放せ|アンドレ|何をする|人を呼ぶぞ|」

アンドレは、オスカルのブラウスに手に掛け剥ぎ取った。

「…それで、…私を…、どうしょうと言うのだ…」

オスカルは、呆然と涙を流して呟いた。

「すまなかった…、こんな拳は、二度としないよ…」

我に返ったアンドレは、オスカルの身体にシ−ツを掛けると、部屋を出て行った。

そして、アンドレは、1人酒場に行き、自分の頭を冷やしていた。

《オスカルがオスカルじゃなくなる事なんて、出来はしない…。
20年間、俺は、お前だけを見て、お前だけを思って来た。
愛している…、愛してしまった。例えようもない程に深く…》

そして又、アンドレは、酒場で衛兵隊のアラン・ド・ソワソンと出会った。

オスカルは、より激しく、行動する生き方を求めて、近衛連隊を去った。
そして、転属先のフランス衛兵隊では、飾り気のない本音で生きている男達の荒っぽい歓迎がオスカルを待ち受けていた…



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