さよなら妹よ!

オスカルとアンドレは、一心不乱に馬を駆るロザリーの姿を小高い丘の上から見ていた。

「知らぬ間に随分と腕を挙げたな」

「執念と言うのかな。ロザリーは、今、母親の敵を討つ為だけに心を燃やしているんだ」

「ポリニャック伯爵夫人か…、仇を討ってどうなる。
燃え尽きて、その後、ロザリーは、何をする…。
我々が何かをしてやれるとしたら、その後だな…」

ポリニャック夫人は、11才歳の娘シャルロットと財力のあるローラン・ド・ギーシュ公爵との結婚話を決めた。
しかし、シャルロットは、泣きじゃくる。

「私、結婚なんていや!!」

「遅かれ、早かれ、女は殿方に愛されねばなりません。
それが女の幸せです」

ポリニャック夫人は、娘をたしなめた。

そして、夜会へと出向いたオスカルは、そこでシャルロットとド・ギ−シュ公爵の婚約話を耳にする。

夜会に出席した噂好きの貴族達は、親子ほどの歳の離れたシャルロットとド・ギ−シュ公爵のカップルを見て囁いた。

「公爵様は43才…、ご趣味らしいわよ….そういうの…公爵様…」

夜会の会場から、1人抜け出したシャルロットに気付いたオスカルが彼女の跡を追った。

「ラララ…♪」

シャルロットは、口ずさみながら噴水の脇に座っていた。

「こんな人気のない所にお一人でいては、いけません」

「オスカル様…、私…、もう少し大人になって、恋をして…、そして、お嫁に行きたかった…。
オスカル様のような素敵なお方の所へ…」

風が出て来て、木ノ葉が舞い散る…。



「この胸のバラを私に下さい!」

シャルロットは、オスカルが胸に挿していた白いバラを奪い去るようにその場を立ち去った。

一方、ついにアンドレは、調べ続けていたロザリーの本当の産みの母親を突き止めた。

「今の名をシャロン・ド・ポリニャック…」

ジャルジェ家の屋敷の塔の上でオスカルとロザリ−は、夕日を見つめている。

「苦しみ…?いいえ、オスカル様、私は苦しんでなんかいません。
だって、私にとって、母は1人…。
ニコール・ラ・モリエールただ1人なんですから」

一方、ド・ギーシュ公爵のシャトーで晩餐会が開かれた。

「いかがですかな?シャルロット嬢…
貴女さえ、その気になれば、今夜からでも、この城に貴女の部屋を作って差し上げますよ」

シャルロットは、ドキリとして何も言えない。

「おぅ!お優しい!私の冗談を真に受けなされた…ほほほほ!」

その光景を列席しているポリニャック夫人と大人たちの一同が笑った。

《助けて!オスカル様!》

シャルロットは、心の中で叫んで、オスカルから貰った白いバラを胸に付けながら、苦悩に耐えていた。

そして、晩餐会を終えてシャトーから、帰路へ着くポリニャック夫人の馬車をロザリ−が止めると、猟銃を構えてポリニャック夫人へ銃口を向けた…。

「静かに!私に向かって、何も話し掛けてはいけない!
直ぐに終わります。あたしが引き金を引きさえすれば、いいのだから!」

「撃たないで!私は、まだ死にたくない!」

ロザリ−は構えたまま、引き金を引く事が出来ずに、その場に崩れ落ちるとオスカルが現れた。

「撃てるわけがない。お前のような優しい娘が本当の母親を撃てるわけがない」

「何ですって…!?」

「この娘の名は、ロザリー・ラ・モリエール…。
それだけ言えば、もう、お分りでしょう。
シャロン・ド・ポリニャック夫人…。いや…、マルティーヌ・ガブリエル・ド・ポリニャック夫人」

馬車の中では、何も知らずに疲れて眠っているシャルロットがいた。

「この娘は、お前の妹という事になる。
良かったな。引き金を引けば、今度は、この娘が悲しむところだった」

「違う!この娘は、あたしの妹じゃない!
だって、ポリニャック夫人は、あたしの母じゃない!
だから、この娘もあたしにとって赤の他人…」

「あの娘がロザリー・ラ・モリエール…。
だとしたら…、間違いなく、私が15の時に産んだ娘…。
では、あの時、馬車で跳ねた女は…、生まれたばかりのロザリーを引き取って、育ててくれたニコール・ラ・モリエール…!
そんな…!そんな事って…。あの親切だったニコールを…。
あぁ…!神よ!、私は忌まわしい悪魔に呪われているのです!
どうか…、どうか…、これからの私をお守り下さい!」

数日後、ベルサイユ宮での夜会にロザリ−は、気晴らしの為に出席しに来ていた。

同じく、夜会に出席しようとしたシャルロットは、ド・ギーシュ公爵と出くわして部屋へ連れ込まれる。

「おや!おや、何をそう警戒なさる?
私たちは、間も無く式を挙げる仲ではないか…?ほほほほ…、ただ、その可愛らしい貴女の手に接吻をとお願いするだけではないか…」

そう言うと、ド・ギーシュ公爵は、シャルロットの右手の甲に接吻した。

右手を押えながら、走っり去って行くシャルロットの中で、何かが壊れ始めていた…。

噴水に来たシャルロットの表情が少しずつ、豹変していく…。

「あははは!あははは!」

そして、シャルロットは、一心不乱に噴水の水で右手の甲をゴシゴシと洗い始めた。

「あははは!あははは!」

「大変でございます!塔の上にポリニャック家のお嬢様が!」

「シャルロット!!」

ポリニャック夫人の叫びも空しく、周囲は騒然としていた。



「私…、ちゃんと手を洗ったわ…。
だから…、また、このバラのように綺麗になれるの…。結婚なんて…、いや…」

シャルロットは、白いバラを空に放り投げると、自らも空へと身を投げた…。



地面に散る白いバラ…。そして、シャルロット…。

凛としたロザリー。

「悲しくなんかない…、いくら、血が繋がっていると言われても、一緒に暮らした事もない。
言葉だって、1、2度交わしただけ…。
血が繋がっているからと言って、愛が持てるとは限らない…。
血の繋がった赤の他人がいたっていいわ」

ロザリ−は、涙を流しながら言い放した。

「そうですよね…!?、オスカル様!
死んだんです…!、オスカル様!、私の妹が…!
名乗り合う事もないまま…、死んでしまったんです!
可哀相に…、あたしの妹が…!たったの11歳で…!」

オスカルは、泣き崩れるロザリ−を黙って見つめているだけだった。。



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