激しく鳴り響く、雷と降りしきる雨の中、フランス王家に仕えるジャルジェ将軍家では、後継ぎになる男子誕生を待ちかねていた…。 「オギャァ…オギャァ…!」 「オ−ッ!男だ…!今度、こそ男だな…!?」 元気な産声を聞いたジャルジェ将軍は、乳母のマロン・グラッセに詰め寄って、問いた。 真っ白なレースの産着の中で、天使の如く、微笑を浮かべる姫を慈しむように見つめて、乳母は首を横に振った。 「いいえ…、この通り、お美しいお姫様でございます」 女児の誕生と知らされて、ジャルジェ将軍は声を荒げた。 「うっ…、王家をお守りして、軍を指揮する将軍家に女など要らぬわ!」 しかし、ジャルジェ将軍は、何かを思い付いたように赤ん坊を抱え上げて、叫んだ。 「よし!決めた!おまえは男だ!! おまえの名はオスカル!私の息子だ!!」 1769年 オスカルが生まれて、14年の歳月が流れた。 ベルサイユ宮殿では、民衆の貧しい生活をよそに今日も華やかな舞踏会が繰り広げられていた。 20年後にフランス革命が起ころうとも知らずに… ベルサイユ宮殿では、毎夜、舞踏会が開かて、きらびやかな飾りの施された燭台に無数の蝋燭が惜しみなく灯る。 そして、壁面いっぱいの装飾品や貴婦人たちのドレスをより美しく、照らし出していた。 そして、羽扇に髪飾り、上着の縁取りに至るまで、優雅さを競うように男も女も誰もが自らを飾り立てていた。 「まぁ〜珍しい!ジャルジェ将軍だわ!」 「まぁ!、本当!」 たちまち、ジャルジェ将軍は貴婦人たちに囲まれて困惑する。 「ねえ、ジャルジェ将軍…、今宵こそ、オスカル様をお連れ頂けたのでしょうねぇ?」 「それは、もう…、お美しい!と評判のオスカル様…。 今宵、こそは、お目に掛かれると楽しみにして、参りましたのよ!」 「はあ…、それが…」 その頃、ジャルジェ家の庭園では、オスカルとアンドレが剣の練習をしていた。 アンドレは、ジャルジェ家に仕える乳母マロングラッセの孫。 2人は歳が近く幼い頃から、兄弟のように育って来た。 「オスカル!ベルサイユへ行かなくていいのか?」 「誰があんな所へ!」 オスカルの剣がアンドレのベストの横腹を切り裂いた。 アンドレの剣は、オスカルのしなやかな剣によって、空高く跳ね上げられて、柄の輪の部分がオスカルの剣先に拾われてクルクルと螺旋をしながら、オスカルの手元に滑り落ちた。 「アンドレ、腕が落ちたな!」 その剣をオスカルは、アンドレに向かって滑らせた。 オスカルは、男として、輝くように美しく成長していた。 二人は再び剣を交えて、お互いの剣を受け止め合う…。 「お嬢様!、それにアンドレ!! いつまで、そんな、危ない物を振り回してるんです!」 屋敷の窓から、乳母のマロングラッセが2人を叱り付けた。 「いっけねー、お婆ちゃんだ!オスカル!」 「こらっ!アンドレ!オスカル様とおっしゃい!オスカル様と!」 マロングラッセは、小さい体を窓から乗り出すような勢いでアンドレを叱り付けた。 「いいじゃないか!、ばあや!」 オスカルは、笑いながら答えた。 「いいえっ!ケジメはケジメです! アンドレ!おまえは、召使の身なんで…、あっ!危ないっ!」 マロン・グラッセの心配をよそに、2人は剣を止める事なく互いに受け合った。 乳母は、ピンク色のドレスを撫ぜながら目を伏せる…。 「本来なら、このドレスをお召しになって、社交界にデビューなさる、お歳なのに…。 いいえっ!諦めるもんですか! 私は、きっと、このドレスをオスカル様に着せてみせますとも!」 ジャルジェ将軍は、国王ルイ15世に呼ばれて、ベルサイユ宮殿の『国王の間』にやって来た。 「久しぶりだな…、ジャルジェ。 予てより、オマエから申し出のあった近衛隊隊長の件だが、ジェローデル伯爵の息子も候補に挙がっているのは、存じておろう。 素晴らしい剣の使い手だそうだ」 「はい。しかし、剣ならば、私の息子オスカルも決して、引けはとりません」 「…息子と言ったな」 「失礼いたしました。実は…」 「ハハハ!構わん。男子に恵まれぬ、おまえがいかに苦労して、育て上げたかは、噂には聞いておる」 ルイ15世は.信頼するジャルジェ将軍の子供オスカルが女というだけで否定する.器の小さい人間ではなかった。 「どうだ?ジェローデルと一太刀交わして、勝ったらという事では? 実は、余もオスカル隊長の実現を期待しとる。 マリ―・アントワネットを出来るだけ華やかに優雅に護衛してやりたいのだ」 18世紀のこの時代、ヨーロッパは絶え間ない戦乱に明け暮れていた。 ことに強大な軍事力を持つフランスとオーストリアは、衝突を繰り返していた。 しかし、それが他の諸国を喜ばせるだけだと悟ったオーストリアの大帝マリア・テレジアは、両国の和平を提案して、歴史的な同盟が結ばれる事になったのである。 その確かな証として、マリア・テレジアの末娘マリー・アントワネットとフランス王太子の婚約が決められた。 オスカルは本来なら、ドレスを着て社交界デビューする年頃だが、男として育てられて来て、間もなくオーストリアから迎える国王の孫の花嫁マリー・アントワネット就きの近衛隊長として、華やかな男装の麗人として評価を受ける。 「女のお守りなど、したくありません!」 オスカルには、既に誇り高い武士魂が育っていた。 しかし、もう一人の隊長候補ジェローデルと剣の公開勝負をしなければならないと知ったオスカルは、密かにジェローデルに勝負を挑む。 それは、公式の場で『女に負けた』という不名誉をジェロ−デルに与えない為の心くばりだった。 そして、オスカルに負けたジェローデルは自ら隊長を辞退する。 そして、近衛隊長任命の知らせにジャルジェ将軍は大いに喜ぶが、オスカルは迷う…。 やがて、心を定めたオスカルは、花嫁衣装と見まごうばかりの純白の近衛隊長の制服に身を包み、武人として大人への第一歩を踏み出して行く…。 <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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