突然イカルスのように

オスカルは、右腕の筋が半分切れて、全治2週間の怪我を負っていた。

そして、フェルゼンはオスカルの屋敷に見舞いに訪れてオスカルと再会を果たした。

「夢ではなかったんだな。戻って来たのか、フェルゼン」

「あぁ、4年ぶりだ、お前に会うのは」

「礼を言う。フェルゼン。危ない所を有難う」

「礼など言うな。お前の所に挨拶に来る途中だったんだ」

「フェルゼン。王后陛下、アントワネット様には会わないのか…?」

「アントワネット様は、御変わりないか?」

「あぁ、御変わりない。だが、あの方は益々、お美しく御成りだ。
例え様もなく、美しく御成りだ。
今を盛りに咲き誇り、花の様に目映いばかりの輝きと優雅さに溢れてお出でだ。
でも、決して、お幸せそうではない。
いつも満たされず、報われず、遊び惚ける事で御自分を誤魔化してで、お出でだ。少なくとも昨日までは」

そして、オスカルは、心の中でフェルゼンに語り掛ける。

《お前が帰って来た事でどれ程、アントワネット様は、喜ばれるだろう。
フェルゼン、4年前と少しも変わらない深い海の様な、お前の目を見て、どれ程、あの方は、喜ばれるだろうか》

また、ベルサイユ宮のマリ−・アントワネットもオスカルの怪我を知ると、共にフランスにフェルゼンが戻って来た事を知って、驚きながらも胸をときめかせた。

《フェルゼン…、あぁ…、フェルゼン!帰っていらしたのですね!》

マリ−アントワネットは思った。
4年前に18才の時の初めての出会いを…。
それは、めくるめく、時の流れの中の一時の美しい澱みであった。
薔薇とダイヤモンドと華麗な調べとさんざめく笑い声にうずめ尽くされた幾百の昼と夜を越えて…。
隔てられた距離と空間を越えて、今、甦る熱い胸の高鳴りに22才の王妃マリーアントワネットは、精一杯耐えていた。

フェルゼンは、結婚相手を探す為にフランスへ来たとオスカルに話をした。

「愛してもないのに結婚するのか!?フェルゼン…!」

「ならば、オスカル…、愛していれば、愛してさえいれば、結婚できるのか…?!」

フェルゼンは、スウェーデン軽竜騎兵の正装に身を包んで、ベルサイユ宮を訪れた。
そして、マリ−・アントワネットに謁見して告げる。

「実は、只今、結婚話が進んでおりまして…」

マリ−・アントワネットは、フェルゼンからの突然の結婚話を聞いて動揺する。



「フェルゼン!…、アントワネット様に何故、言った!?」

オスカルは、激しくフェルゼンを問い詰めた…。




後日、国王ルイ16世主催のオペラ会でマリ−・アントワネットとフェルゼンは偶然に出会った。

そして、2人はベルサイユ宮の庭園で忍び会った。

「フェルゼン…!私のフェルゼン!」

4年前のオペラ座で出会った仮面舞踏会の夜から、2人の魂は密かに呼び合い、求め合い、立て琴の銀の弦のように打ち震えていた。

そして、神に定められた、この時がいつか来るのを予感しながら…

「忘れて下さい!今は、私が王妃である事を…!フェルゼン…!愛しています!」

《愛し合う事が許されたとしたら、どんなにか素晴らしい恋人同士になられる事だろう。
だが、お前は、それでいいのか?オスカル…》

オスカルは一人、フェルゼンへの思いを自問自答していた…



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